一 古文も日本語である
古文を外国語のように扱わないことが出発点である。
- 現代日本語と共通する語彙や表現が多い。
- 古文単語の意味にも、現代語と同じように幅がある。
- 作品の成立年代によって、現代日本語との距離も異なる。神奈川県でよく出題される江戸時代の文章になると、平安時代の古文単語の意味をそのまま当てはめると、むしろ読み違えることもある。
「マジやばい」の意味を、前後の文脈やその場の空気から理解できる中学生なら、時代によって意味にグラデーションのある古文単語も、文脈によって意味が変わることを理解できるはずである。
古文単語を覚えることは必要である。しかし、単語の訳語を当てはめることより先に、文脈をつかむことが重要である。
二 まず、「誰が何をした話なのか」をつかむ
神奈川県で出題される説話・随筆系の古文は、エピソードが続き、最後に作者の感想や教訓めいた一言が付くと考えるとわかりやすいものが多い。
物語部分
現代の文学的な文章と同じように、人物の行動・会話・心情を追う。
最後の作者の一言
論説文の結論のように、書き手がこの話を通して何を言いたかったのかを確認する。
特に神奈川県の問題では、(ア)から(ウ)は人物の行動・会話・心情を正確に把握することが求められる。
令和7年度の小栗某の話では、食事の約束を誰が申し出たのかが問題になった。「しからば」という接続語が何を受けているか、その前後の会話を見れば、発言者を判断する手掛かりになる。
ただし、古文では主語がしばしば省略される。分からない主語を一文ごとに無理に確定する必要はない。いったん保留し、後の行動や展開から判断することもできる。
一方、(エ)では、最後の一文から推し量れる文章全体の主旨が問われる。古文の最後の一言は、現代の論説文にありがちな抽象的でわかりにくい表現ではなく、書き手が言いたいことを比較的はっきり言い切っていることが多いため、むしろ主旨をつかみやすい場合がある。
三 作品の成立年代と時代背景を利用する
作品が成立した時代と、物語の舞台となっている時代は、別々に考える。
令和7年度の『武家義理物語』(井原西鶴)は江戸時代の作品である。ここに登場する石川丈山(1583~1672年)も江戸初期の人物で、物語の時代自体が平安・鎌倉のような「遠い昔」ではない。
文章にも近世の語彙や語法が多く、現代日本語にかなり近い意味・用法の言葉も増えている。したがって、古文単語を一語ずつ決まった現代語に置き換えるより、現代日本語との連続性を意識して、前後の文脈から意味を取ることが重要である。
紀伊大納言の話も同様である。江戸時代の武家社会の価値観や、御三家という立場を知っていれば、「この人物を作者が最終的にどのように描こうとしているのか」を予測する手掛かりになる。
背景知識は補助線
時代背景はあくまで読解を助ける材料である。本文に書かれていることより優先してはいけない。
四 古文単語の「訳語」ではなく、前後の文脈で意味を決める
古文単語帳には、「あやし=不思議だ」のように代表的な訳語が載っている。しかし、言葉の意味は一点ではない。
訳語の暗記は、辞書が意味の広がりの中から切り取った「一点」を覚えることである。実際の語感は、時代や文脈によって濃淡のあるグラデーションになっている。その語が、その場面でグラデーションのどこに当たるのかを決めるのは、結局、前後の関係と話全体である。
令和8年度の『宇治拾遺物語』に出てくる「人々あやしく思ひ」は、その好例である。
「あやし」を「不思議」としても「不審」としても、一応意味は通る。だから、訳語だけでは正解を選べない。
なぜ人々が「あやし」と思ったのか。「やんごとなき僧をば召さずして」とあるように、身分の高い僧が大勢いるにもかかわらず、なぜその「ある僧」が呼ばれたのか。さらに、その後の文章まで読めば、殿の普段とは違う様子に対しても「人々あやしく思ひける」と表現されている。
同じ「あやし」でも、その場面によって「不審だ」「妙だ」「不思議だ」と少しずつ意味が動く。
古文単語の意味が分かることと、文章の意味が分かることは別である。古文単語は「答え」ではなく、文章を読むための手掛かりである。
五 選択肢の論点を抽出してから本文と照合する
これは、北川塾の国語全体に共通する解法である。
古文の物語部分も、選択肢の分析方法は現代の物語文と同じでよい。令和8年度 問2(イ)を使って、いきなり正誤を判断せず、「何が論点か」「各選択肢はその論点について何と言っているか」を抜き出す手順を解説している。
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実例
小栗某(ア):誰が食事を申し出たのか。「しからば」が何を受けているかを確認する。
小栗某(イ):「追いかけた」と「待っていた」の違いを確認する。
小栗某(ウ):本文にない描写を含む選択肢を消去する。
僧の話(イ):「あやし」の訳語に飛びつかず、人物関係と行動を照合する。
特に、物語部分について問う(ア)から(ウ)では、選択肢を一つずつ「正しい・間違い」と判定する前に、選択肢同士の違い=何が論点になっているのかを明確にすることが大切である。
違いが分かれば、本文のどこを確認すればよいのかも分かる。
六 最後の二択で迷ったら
本文を読み直しても二つの解釈が成立する場合は、本文から確実に読み取れる内容を優先する。
ただし、「情報量が少ない選択肢を選べ」という意味ではない。本文の重要な内容が抜けていないか、逆に本文からは確定できない内容を勝手に付け加えていないかを確認する。
それでも十分に検討して決着がつかなければ、いったん判断を打ち切る。入試では、一問の曖昧さを完全に解消することより、残りの問題を解く時間を確保することも重要である。
以上が、最後の二択で迷ったときの基本的な考え方である。具体的な判断の手順については、総論だけでは伝えきれないので、過去問の解説の中で実例とあわせて説明する。
まとめ
古文も日本語である。人物の行動・会話・心情を追い、前後の関係から意味を決め、選択肢の違いを本文と照合する。単語の訳語を当てはめるのではなく、話全体の中で意味を決めることが、神奈川県の古文を安定して解く基本になる。
実際の出題でこの考え方がどう働くかは、神奈川県公立高校入試 古文の過去問解説一覧で、令和6〜8年度の本検査・追検査を横断して確認できる。
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