2026-06-14|北川誠二

二択まで絞れるのに、なぜ逆を選ぶのか

宝の地図は、本文ではなく選択肢の中に埋まっている。

一 推定データが示すもの

以下の表は実測値ではない。神奈川県公立高校入試の正答率データをもとに、複数のAIによって推定した参考モデルである。実際の受験生が何択まで絞ったのか、どの段階で迷ったのかという詳細なアンケートデータは存在しないため、数値そのものに厳密な意味はない。ただし「受験生がどの段階で失点しているのか」という構造を考える上では参考になる。
問題 正答率 二択到達率(推定) 二択到達者の正答率(推定)
問2ア92.9%98%94%
問2イ44.0%80%△49%
問2ウ89.4%95%92%
問2エ73.7%90%79%
問2オ82.8%93%88%
問2カ79.6%92%84%
問3エ56.7%85%61%
問3オ54.6%85%△59%
問3カ52.4%82%△58%
問3キ67.8%88%72%
問3ク55.1%84%△60%
問3ケ65.5%88%70%

赤字△の問2イ・問3オ・カ・クにおいて、二択到達者の正答率は6割以下にとどまる。純粋なコイントスでさえ正答率は50%になるはずである。これらの問題では「絞れなかった」のではなく、「絞ったうえで逆を選んだ」受験生が一定数存在している可能性がある。

実際の指導場面でも、二択まで絞ったうえで悉く外す生徒が一定数いる。内輪の模擬テストだったので、「今回は逆を選んでみなさい」と言ったところ全問正解になったケースすらあった。もちろん指導法として推奨できるものではない。しかし、この現象は重要なことを示している。

二 なぜ、絞ったうえで逆を選ぶのか

二択まで絞った受験生は、そこでコイントスに賭けることができない。「もう少し情報があれば確信が持てるはずだ」という心理から、本文に戻ってヒントを探しに行く。

出題者は、まさにその心理を見越している。

誤答選択肢には、本文の表現を巧みに利用した「根拠っぽいもの」が埋め込まれている。本文に戻って探す行為そのものが、罠へと誘導される行為になっているのである。

さらに根本的な問題がある。選択肢は本文より短い。受験生は「選択肢は理解済み」という前提で本文の宝探しに向かうが、実際には選択肢こそが「わかったつもり」で読み飛ばされやすい。

二択間の差異となっている語句が、本文のどの記述に、どの程度対応しているのかを検証しないまま、「だいたいこんな意味だろう」で処理してしまう。その結果、本文に戻れば戻るほど選択肢への疑いは生まれず、「本文のどこかに答えがあるはずだ」という前提だけが強化されていく。

「本文をよく読め」という指導が、結果として選択肢の理解不足を覆い隠す回避行動を促している構図である。

三 北川式の処方

二択まで絞った段階で、本文に戻る前に二つの選択肢を並べて「どこが違うのか」を先に特定する。差異は多くの場合、以下の一部に集約されている。

その「違いの部分」だけを意識した状態で本文に戻ると、読む行為が「漠然とヒントを探す」から、「この特定の論点について本文はどちらを支持しているか」という検証作業へと変わる。

本文は根拠を与える。しかし、どこを検証すべきかを教えてくれるのは選択肢である。

塾の多くは「本文をよく読め」と指導する。受験生は選択肢を理解できているものとして、本文の中に正解の根拠を探しに行く。

しかし、神奈川県の選択肢問題では、最後の勝負を決めるのは本文ではなく、選択肢同士のわずかな違いであることが多い。

本文の中に宝を探しに行く受験生は多い。だが、宝の地図は選択肢の中に埋まっている。

よくある質問

二択になったら、もう一度本文を読めばよいですか?

必ずしもそうとは限りません。二択まで絞った段階では、多くの受験生が「本文のどこかに答えがあるはずだ」と考えて本文に戻ります。しかし、出題者はその心理を見越して誤答選択肢にも本文の表現を利用した「根拠らしく見える記述」を組み込んでいます。本文に戻る前に、まず二つの選択肢の違いを明確にすることが重要です。

二択まで絞れたのに間違えるのは、読解力不足ですか?

必ずしもそうではありません。神奈川県公立高校入試では、二択まで絞れている時点で読解力があるとも考えられます。しかし、以下のわずかな違いを見落とし、最後の一択で失点することがあります。

  • 語句
  • 範囲
  • 程度
  • 主体
  • 時制
  • 因果関係

そのため、本文読解だけでなく選択肢分析も重要です。

北川式では、本文より選択肢を重視するのですか?

いいえ。本文は根拠を与えます。一方で、「何を検証するべきか」を教えてくれるのが選択肢です。北川式では以下の順番を重視しています。

  • ① 選択肢の差異を特定する
  • ② 本文に戻って検証する

本文を軽視するのではなく、本文を読む目的を明確にする考え方です。

著者

北川誠二

個別指導塾TOMAS現役講師・北川塾主宰・認定心理士

中学受験4教科と中学国語・数学を指導。解法のパターン化・ルーチン化は認知科学のチャンク化・手続き記憶の概念と直結しており、認定心理士としての知見がこのアプローチの背景にある。

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