令和8年度 共通選抜 本検査|神奈川県公立高校入試 国語

問4 古文|『宇治拾遺物語』

「あやし=不思議」に飛びつかない。物語部分は、現代の物語文と同じように選択肢を分析する。

この年度のポイント
古文だから特別な解き方をするわけではありません。人物の行動・会話・前後関係を押さえ、選択肢同士の違いを論点ごとに分解し、本文の語句に戻して確認します。
→ 神奈川県公立高校入試 古文の総論
公表正答率は、(ア)59.8%・(イ)59.2%・(ウ)64.3%・(エ)49.9%。
4問とも正答率は5~6割程度で、特に最後の(エ)が49.9%と低いのは意外です。令和8年度は正答率自体は高くありませんが、選択肢を論点ごとに分け、本文と一つずつ照合できれば、比較的処理しやすい問題です。実際、(エ)も1~3の具体的な誤りを比較的見つけやすい問題です。古文全体を難しく考えるより、選択肢の細部を本文の一句に戻して確認することの重要性がよく分かります。
物語部分の選択肢分析は、物語文と同じ手法でよい

いきなり正誤を判断せず、まず「何が論点か」「各選択肢はその論点について何と言っているか」を抜き出します。分析手順は物語文の動画でも確認できます。
→ 動画で見る|選択肢をどう分析するか
→ 物語文(文学的な文章)の解き方

一 過去問解説

(ア)人物関係・行動の照合正答率 59.8%

選択肢を丸ごと読むのではなく、まず「殿との関係」「参った理由」「その場での状態」「仁王経の出所」に分けます。

「殿」との関係行った理由居た時の状態仁王経
1寺を建ててくれたから安心して暮らせる自発的周囲の目を気にせず出所なし
2おかげで平穏な暮らしができている自発的目を止める人がいない出所なし
3居なくなると立ち行かない自発的騒ぎを避けて移動し廊下の隅で見つけた
4居るから穏やかな暮らしができているお召を受けて誰にも注目されないまま出所なし
本文御徳で住んでいる。
失ったら自分の存在意義がない
召さずとも参らんつゆ目も見かくる人もなき持ちたてまつりて

1は「周囲の目を気にせず」、3は「廊下の隅で見つけた」、4は「お召を受けて」が本文とずれます。2は本文の説明と矛盾しません。

古文も日本語。「つゆ目も見かくる人もなき」の意味が分からなくても、現代語の副助詞(文語では係助詞)「も」の意味(声もないと同じ用法)から「人もいない⇒人すらいない」、周囲の目を気にせずではおかしいとわかります。

答え 2

(イ)「あやし」の訳語より、前後の文脈正答率 59.2%

「人々あやしく思ひ」を見て、単語帳の「あやし=不思議だ」に飛びつかないこと。何を、なぜ「あやし」と思ったのかを選択肢の差から確認します。

不都合な理由名高い僧誰?
1住まいに来たことに続いて「殿」がよんだ
2住まいにいることではなく自分が呼ばれないのは変だ
3住まいにやってきたことではなく「殿」がよんだ
4住まいで祈ること差しおいて「殿」がよんだ
本文かく参りたるだによしなし召さずして「殿」が「こなたに呼べ」
単語の意味が分かることと、文章の意味が分かることは別。
「不思議」「不審」のどちらでも一応意味は通ります。正解を決めるのは、前後の人物関係と行動です。

本文は、高名な僧たちを呼ばず、その「ある僧」が呼ばれたことを人々が不思議・不審に思った場面です。3が最も本文の関係を正確に説明しています。

答え 3

(ウ)映像混線型の誤答に注意正答率 64.3%

この問題では、本文に「打つ」が二つの場面で出てきます。鬼が殿を打つ場面と、童子が鬼を打ち払う場面です。後者には「むち」が書かれているため、頭の中の映像が混ざると、鬼までむちを持っていたように補ってしまいます。

ある僧は何をしていた鬼を追い払ったのはどうやって追い払った
1中門の横で読経童子むちで
2中門の横で読経ある僧と童子むちで
3中門の脇にいたところ童子取り上げたむち
4中門の脇にいるとき童子読経で
本文中門で読経するにはそこに居る必要があります。童子持ちたるむちで
③が危ない理由
本文では、鬼が殿を「打つ」。別の場面で、童子が「むち」で鬼を「打ち払う」。この二つの映像が頭の中で混ざると、「鬼もむちを持っていた」と自然に補ってしまいます。すると「鬼どもから取り上げたむち」が、むしろ筋が通って聞こえます。

しかし本文に、鬼がむちを持っていたとも、童子が鬼からむちを取り上げたとも書かれていません。③の決定的な誤りは「取り上げた」です。

映像を思い浮かべながら読むのは正しい。ただし、映像に本文にないものを足してはいけません。映像で納得できた選択肢ほど、選択肢の語句を本文の一句に戻して確認します。

答え 1

(エ)NGワードを見つける正答率 49.9%

最後は、選択肢全体を精密に現代語訳する必要はありません。本文にない一語・一要素を見つければ消せます。

NGワード
1気分がすぐれない中でも
2高貴の僧たちの横に並んでいた
3周囲の人に聞かされた
4なし

1〜3には本文と一致しない具体的な要素があります。4には決定的な瑕疵がありません。

答え 4

二 この年度から分かること

(ア)から(ウ)の物語部分は、現代の物語文と同じ方法で選択肢を分析できます。
まず選択肢同士の違いを見つけ、比較する論点を作る。次に、本文のどこを確認すればその違いを判定できるかを絞る。古文だからといって、全文を一語ずつ現代語訳してから解く必要はありません。
「選択肢は宝の地図」は、古文でも同じです。
選択肢の違いを確認できれば、本文のどこを確認すればよいかが分かります。
古文単語は「答え」ではなく、意味を探るための候補です。
「あやし=不思議だ」の一点暗記だけでは(イ)は解けません。訳語は意味の広がりの中の一点。実際の語感はグラデーションであり、その場面でどこに当たるかを決めるのは前後の文脈です。
本文にある事実を、頭の中で勝手につなげない。
(ウ)の「取り上げたむち」は、本文中の二つの「打つ」場面が混線したときに自然に見える誤答です。選択肢の具体的な語句は、必ず本文の一句に戻して裏づけを取ります。

三 まとめ

令和8年度の問4は、古文単語や文法の知識量を競う問題というより、人物関係・行動・前後関係を正確に追い、選択肢の差を本文に照合できるかを問う問題です。

実際の正答率は49.9~64.3%にとどまります。内容が極端に難しいというより、本文の大筋だけで選ばず、選択肢に混ぜられた一語・一要素まで確認できるかが得点差になったと考えると、各選択肢の作りが見えやすくなります。

古文も日本語です。知らない語があっても、話の流れをつかみ、選択肢を論点ごとに分解すれば解ける問題は多くあります。

AUTHOR

北川誠二

個別指導塾TOMAS講師・北川塾主宰・認定心理士

神奈川県公立高校入試の過去問を、正解だけではなく「なぜその選択肢を消せるのか」「何を見ればよいのか」という解く順番から分析しています。

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