神奈川の物語文は、非常にやりやすい選択肢構成であることが多い。本年度もそうである。冒頭の枠内を読み、選択肢の構造を理解すれば、それだけで正解を導ける問題がほとんどである。物語文に2ページ半を読む時間を費やすより、論説や古文に時間を使う方が得点効率は高い。以下の解説は本文を読んでいない私の選び方である。ただし、選択肢からは選びきれないときのみ、本文を読む。
令和8年度 共通選抜 本検査|神奈川県立高校入試 国語
問2 物語文読解|一眞とフェノロサと仏像
① 時代:明治時代——写真という外国から伝わった最新技術が入ってきた頃。
② 主人公「一眞」の技術レベル:日蝕の撮影という難しい依頼をこなせる・品評会で銀牌を取るレベル。技術は十分にある。
③ 悩み:自分の写真には何かが足りないと感じていた。技術があるのに足りない——技術ではない何かがテーマだと予測できる。この一点を持って選択肢に向かう。
④ 同行者:日本美術を研究する「フェノロサ」と調査の旅に参加していた。
フェノロサを知らなくても「日本美術を研究する人物」という枠内の説明で十分。(ウ)の選択肢を絞る鍵がここにある。
一 過去問解説
カメラの仕組みを説明したが、フェノロサが求めているのは仕組みの説明ではないことはわかる。起の場面——一眞にとっては「何言っちゃってんの、こいつ」という感情だろう。選択肢1・2で絞り込む。
- 1.一眞の表情に、フェノロサへの戸惑いが出た。
- 2.一眞が表情で、フェノロサに何かを伝えた。
- 3.この段階でどのように収めるかを聞きたいと気づいた。
- 4.仕組みの説明が問答の中心になった。
1が正解。
3はこの段階で気づくのは不自然。除外。4は仕組みが中心に来ることはない。除外。1と2の違いは「表情に出た」か「表情で伝えた」か——起の場面では一眞はまだ能動的に伝えようとしていない。戸惑いが表情に出てしまった、という受動的な描写の1が正解。
答え 1
承の場面。除外キーワードを見逃さない、展開のスピードを考える。
- 1.この時点で気づく内容を含む選択肢。
- 2.承として自然な気づきの内容を含む選択肢。
- 3.「主観」という語を含む選択肢。
- 4.「自明」という語を含む選択肢。
2が正解。
1はこの時点で気づくのは早すぎる。転のスピードで承が来ることはない。除外。3は「主観」という語——主観を表現すれば芸術になるというのは結論に近すぎる。承の段階で出てくるキーワードではない。除外。4は「自明」という語が文脈に合わない。除外。2しかない。
答え 2
主語と述語は「フェノロサは言い募る」。一眞の感受性に変化があった後の場面。フェノロサという人物像が鍵——明治期に日本美術を西洋に紹介した人物であり、日本芸術の支持者である。物語であっても人物像は重要な視点となる。
- 1.「目を向けず」「立派」「壊れた」を含む選択肢。
- 2.「信念」を「一眞」が持っているとする選択肢。
- 3.「技術を大切」という語を含む選択肢。
- 4.フェノロサが日本芸術の価値を主張し続けることを表した選択肢。
4が正解。
1は「目を向けず」が疑問。「立派」「壊れた」は本質ではない。除外。2は信念を「一眞」が持っているとするのは考えられない——一眞が向いているのは写真であって信念の人ではない。除外。3は「技術を大切」は違う。このテーマの核心は技術ではない。除外。4はフェノロサの人物像と一致する。「まで」の助詞も適切。
フェノロサは今では日本の芸術を海外流出させた張本人とも評されるが、明治維新で旧来の価値が否定されようとしていた当時、日本に留め置くことの危険を考えればそのような行動も当然だった。そういう人物である。
答え 4
振り返りながらにやっと笑って「さあ、どうでしょうな。」と言ったドヤ顔が目に浮かぶ——受験生にも浮かぶように。ここがクライマックスともいえる。
- 1.「技術を大切に」という内容を含む選択肢。
- 2.「形を正確に」という内容を含む選択肢。
- 3.フェノロサと張り合うような気持ちがあったことを含む選択肢。
- 4.撮影できたと思えなかったという内容を含む選択肢。
3が正解。
1は「技術を大切に」はありえない。このテーマの核心は技術ではない。除外。2は「形を正確に」もありえない。除外。4は撮影できたと思えなかった、ではここで落ちがない——ドヤ顔で振り返った瞬間にそれはない。除外。3は張り合うような気持ちがあったかどうかは本文を読まないと確定しないが、消去法で3が残る。
答え 3
(ア)〜(エ)まで来た時点で、選択肢自体がストーリーの起承転結を形成していることが確認できる。
(ア)戸惑い・起 → (イ)気づき・承 → (ウ)変化・転直前 → (エ)ドヤ顔・転クライマックス → (オ)あらすじ確認・結 → (カ)総括
令和6・7年度に続き、令和8年度でも同じ構造が確認された。出題者は物語の感情変化の流れに沿って設問を配置している。
ここは「結」ではなくあらすじを聞かれている。高野山の段階での一眞の状態を押さえる。
- 1.仏像から何らかの力を感じていたことを含む選択肢。
- 2.解説を聞いたからという理由を含む選択肢。
- 3.高野山の段階で有るがままに写そうとしていたという内容を含む選択肢。
- 4.仏像から力を感じていたから思うように撮れないという内容を含む選択肢。
1が正解。
2は「解説を聞いたから」という理由が明らかにそぐわない。除外。3は高野山の段階では有るがままに写そうとしていた——これは結論後の状態であり、あらすじとして順序が逆。除外。4は仏像から力を感じていたから思うように撮れないわけではない。因果関係がおかしい。除外。1が残る。
答え 1
総括。「技術ではなく心の内なるものを写す」というテーマで選ぶ。選択肢だけで選べと言われれば3だが、念のために最後の段落を読む。
- 1.「何かが足りない」と「思いが写真に表れない」を悩みとした選択肢。
- 2.美術と写真の違いを論点にした選択肢。
- 3.「瞬間」を中心概念にした選択肢。
- 4.心の内なるものを写すことへの気づきを中心にした選択肢。
4が正解。
1は「何かが足りない」と「思いが写真に表れない」は悩みとして違う——足りないのは技術ではなく内なるものである。除外。2は美術と写真の違いは本質ではない。除外。3は「瞬間」は明らかに違う。除外。最後の段落を読む:光と影、影の中に象る光。その光を写すと悟った瞬間に写真を理解した——これが結だが、結が問題にならずあらすじを聞かれている構造。4が正解。
答え 4
二 正答率データ
正答率データが入手でき次第、更新する。
三 方法論の検証
(ウ)でフェノロサの人物像が鍵になった。選択肢先読みだけでは絞りきれない場面で、登場人物の背景知識が補助線になる。物語文であっても、歴史的人物が登場する場合はその人物像を知っているかどうかが分岐点になりうる。
令和6・7・8年度の3年度にわたり、選択肢自体が起承転結の構造を形成していることが確認された。これは偶然ではなく、神奈川県の物語文設問の設計原理である。この構造を知っていれば、前の設問の選択肢を読むだけで次の設問の文脈が絞れる。→ 物語文の解き方(詳細)
総括問題(カ)では選択肢先読みだけでは3と4が残った。こういう場面でのみ本文を読む——最後の段落だけを確認することで即断できた。「選択肢先読み+必要最小限の本文確認」という方法論の実際がここに現れている。
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