COLUMN

2026-06-15|北川誠二

選択肢は宝の地図である

差分が問いを決める。正解が地味な理由。


選択肢には、論理的な必然性がある。複数の選択肢に共通している内容は、通常は正誤を分ける決定打にならない。なぜなら、それが誤りであれば複数の選択肢が同時に誤りになってしまうからだ。

したがって、本文を読む前にまず確認すべきことがある。選択肢同士を比較し、「どこが共通で、どこが違うのか」を把握することだ。違っている部分こそが、出題者が受験生を選別するために置いた情報であり、本文で検証すべき箇所になる。

選択肢とは、出題者が「どこを問いたいのか」を埋めた宝の地図である。

宝の地図を見ずに本文へ飛び込めば、受験生は物語に引き込まれる。感動し、共感し、自分なりの物語を補完してしまう。しかし、宝の地図を先に見れば、「どこを確認すればよいのか」「どこが勝負所なのか」が見えてくる。

多くの受験生はその構造を見ずに物語を読んでしまう。「本文をよく読みなさい」と言われれば言われるほど、一生懸命本文を見てしまう。その結果、出題者の論理と受験生の感想文がすれ違う。

また「選択肢の先読みは危険」という指導がある。「先に選択肢を見るとバイアスがかかる」という理由だ。しかし逆である。選択肢を見ずに本文を読むと、受験生は物語に引き込まれ、読後の感想や印象で選択肢を選び始める。「二択になったら選択肢を比較しなさい」という指導もある。比較すること自体は正しい。しかし、何を比較するのかが抜けている。選択肢を並べて眺めても、どちらももっともらしい。そこで多くの受験生は本文に戻り、どちらかを支持する記述を探し始める——それでは出題者の土俵の上で戦っているだけだ。

一 令和8年本検査 問二(オ)で見る

この問題を題材に、宝の地図の読み方を具体的に示す。

物語の骨格

写真はありのままを正確に写すものと思っていたが、何かが足りない
フェノロサに「IDEA」を問われ、写真と美術は違うと反発する
「どうせなら、やってみよう。」「今だ。」
「さあ、どうでしょうな。」言い知れぬ高揚を覚え始めていた

設問(オ)が問うているのは、起と転の対比だ。高野山では「撮れなかった」。興福寺では「今だ」で「撮れた」。この構造が、選択肢を検証する際の照合基準になる。

設問文

(オ)「一眞」の仏像の撮影について、高野山での不動尊像の撮影と興福寺での無著像の撮影を比較したときの違いを説明したものとして最も適するものを次の中から一つ選び、その番号を答えなさい。

選択肢の差分解析

正解
高野山では仏像から力を感じる中で
なかなか写真を撮れなかったが、
興福寺では時代を越える力を感じとると、
自身の心を動かしたものを撮ろうと仏像に向き合っていき、
好機を逃さず写真を撮った。
誤答
高野山では仏像と対峙してもうまく写真を撮れなかったが、
×興福寺では解説を聞いたことで
佇まいの雄弁さを強く感じられるようになったので、
時代を越える力を表す写真を、
確信を持って撮影した。
誤答
高野山では自分なりに感じた
×仏像の価値を表現したいと思って
撮影に時間を要したが、
興福寺では時代を越える仏像の力を理解し、
仏像の普遍的な価値を伝えようと決めて、
機会を捉え写真を撮った。
誤答
高野山では仏像の力を感じ
思うように写真を撮れなかったが、
×興福寺では仏像の全体を写真に収めようとする中で、
語り掛けるような顔立ちに見える角度を見出し、
ここぞという瞬間に写真を撮った。

二 構造として整理する

各選択肢の要素を縦に並べると、差分が浮かび上がる。

要素
高野山では仏像から力を感じ
なかなか写真を撮れなかった
興福寺では時代を越える力を感じ
解説を聞いたことで(2のみ) ×
価値を表現したいと思って(3のみ) ×
像全体を収めようとする中で(4のみ) ×
「今だ」とシャッターを切る

宝の地図の読み方 二つの原則

原則1:×はその選択肢にしか現れない。
もし「解説を聞いたことで」と「解説よりも」が別々の選択肢に書かれていたら、受験生は自然に比較を始める。出題者はそんな親切なことはしない。比較されると見抜かれてしまうからだ。

原則2:×の近くには必ず魅力的な言葉が置かれている。
受験生はその表現に引き寄せられ、すぐ近くの誤りを見落とす。これが選択肢問題の仕掛けの正体だ。

三 正解はなぜ地味なのか

誤答の選択肢には、印象的な言葉が並んでいる。

佇まいの雄弁さ 選択肢2
仏像の普遍的な価値 選択肢3
語り掛けるような顔立ち 選択肢4

読後の感想としては、むしろ誤答の方が魅力的だ。感動し、共感した状態で選択肢を見れば、これらの言葉に引き寄せられてしまわないだろうか。

一方で、正解の選択肢1は驚くほど地味だ。感動的な盛り上がりもなく、印象に残る表現もない。しかしそれは内容が薄いからではない。出題者が問うていることだけを書いているからだ。

宝の地図を理解せずに本文より先に読んだり、本文を読んでから宝の地図を見たとしたら、ぞっとしないか。

差分を先に見る。どこが共通で、どこが違うのか。それだけで、出題者が問うていることが見えてくる。先に見るべきは印象的な言葉ではない。差分である。

著者

北川誠二

個別指導塾TOMAS現役講師・北川塾主宰・認定心理士

中学受験4教科と中学国語・数学を指導。中受算数で培った比と面積の感覚、国語・数学を同時に指導することで見えてきた「問題文読解と数学得点の直結」を解説に活かす。解法のパターン化・ルーチン化は認知科学のチャンク化・手続き記憶の概念と直結しており、認定心理士としての知見がこのアプローチの背景にある。

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