体内時計とは、体の働きを「時間の流れ」に合わせて調整する仕組みです。 体内時計は、脳にある主時計(中枢時計)と、各臓器にある末梢時計によって構成されています。
主時計は主に光によって調整され、末梢時計は主に食事によって調整されます。 体内時計は、これらが同期しているときに、全身の働きが時間に合わせて適切に調整されます。
体内時計の中心にあるのが 主時計(中枢時計) です。 主時計は体全体のリズムの基準となる「司令塔」として働きます。
一方で、肝臓・筋肉・脂肪組織・腸などにあるのが 末梢時計 です。 末梢時計は各臓器の働きを時間に合わせて調整しています。
体内時計は「主時計と末梢時計が同期している」ことを正常な機能状態として考えると理解しやすくなります。 同期とは、主時計と末梢時計が、一定の時間関係(位相関係)を保って動いている状態を指します。
主時計は主に光の情報で調整されます。 末梢時計は光ではなく主に食事によって調整されます。 食事が始まると、インスリン分泌や代謝状態の変化が同期信号として作用し、各臓器の末梢時計が「今が活動期である」という情報を受け取ります。
体内時計は、主時計が上位にあって全身の基準を作る階層構造を持ちながら、 末梢時計が食事などの独立した信号でも調整されるという意味で、 「単純な上下関係」だけでは説明できない多層的な仕組みです。
主時計は「日本標準時を刻むNICT(基地局)」、 末梢時計は「各臓器が持つ腕時計」です。 基地局は光で外界の24時間周期に合わせて基準を保ち、 腕時計はその基準を参照しつつ、食事のタイミングでも調整されます。
このため、光と食事のタイミングが噛み合っているときは、主時計と末梢時計は同じ時間体系の中で動きやすくなります。 逆に、夜中の食事などで末梢時計が別のタイミングで調整されると、主時計との時間関係が一致しにくくなり、 「ズレ(desynchrony)」が起こりやすくなります。
同期が崩れると、時間の関係がずれた状態になります。ズレは、少なくとも次の2種類に分けて整理できます。
1) 主時計と末梢時計のズレ
光で調整される主時計と、食事で調整される末梢時計の時間関係が崩れ、位相差が生じた状態です。
2) 末梢時計同士のズレ
末梢時計は臓器ごとに存在するため、肝臓・筋肉・脂肪組織などの末梢時計の間でも位相差が生じる場合があります。
末梢時計同士のズレ(臓器間の位相差)については、
末梢時計のズレとは何か
で整理します。
これらのズレを食事によって修正する過程は、末梢時計の再同期で詳しく解説します。
食事の内容だけでなく「いつ食べるか(食事の時刻や間隔)」が、体内時計や代謝に与える影響を扱うのが 時間栄養学(chrononutrition) です。 末梢時計は、その中心的な要素の一つです。
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