食塩水の問題を見ると、多くの生徒はまずこう考える。
中学受験を経験していない生徒は「方程式を立てよう」。中学受験を経験している生徒は「天秤法を使おう」。
どちらも間違いではない。しかし、この問題で本当に大切なのは、どの解法で解くかではない。
この問題の構造が何かを見ることだ。
結論から言えば、この問題は食塩水の問題に見えるが、構造としては鶴亀算型の問題だ。
北川式数学の考え方
食塩水の問題を見ると、多くの生徒はまずこう考える。
中学受験を経験していない生徒は「方程式を立てよう」。中学受験を経験している生徒は「天秤法を使おう」。
どちらも間違いではない。しかし、この問題で本当に大切なのは、どの解法で解くかではない。
この問題の構造が何かを見ることだ。
結論から言えば、この問題は食塩水の問題に見えるが、構造としては鶴亀算型の問題だ。
解法を決めるのは単元名ではなく構造
令和6年度 神奈川県公立高校入試 数学 本検査 問3(エ)を題材にする。
「4%の食塩水300gが入ったビーカーから、食塩水agを取り出した。その後、ビーカーに残っている食塩水に食塩agを加えてよくかき混ぜたところ、12%の食塩水になった。このとき、aの値として正しいものを次の1〜8の中から1つ選び、その番号を答えなさい。」
方程式を立てようとすると意外と手間がかかる。天秤法を知っていても、どう置くか迷う。
なぜか。解き方が悪いのではなく、最初に作った「枠」が問題の形と合っていないからだ。
「食塩水の問題だから、濃度・重さ・食塩量の関係式を立てる」という枠で読み始めると、取り出して加えるという操作を全部式にしようとする。式は立つが、重くなる。
この問題の本当の形は、2種類のものを混ぜて別の濃度を作る、つまり小学校で習った置き換え(鶴亀算)だ。枠を作り直すだけで、解き方は変わる。
まず、食塩水が何グラムできたかを確認する。
食塩水の総量確認
取り出した量と加えた量が同じ a だから、総量は300gのまま変わらない。
注目したいのは、4%の食塩水 a g がなくなり、100%の食塩 a g が入ったという点だ。取り出して加えるという操作はもう終わっている。手元にあるのは「(300−a)g の4%食塩水」と「ag の食塩」だけだ。
読み替え
4%の食塩水と食塩(100%)を合わせて、12%の食塩水300gを作った。食塩は何g使ったか。
取り出した手順も、同じ容器でのやりとりも、もう関係ない。4%の食塩水と食塩が手元にある。それだけ。
天秤法を邪魔する二つのノイズ
取り出した残像。取り出した ag がどこへ行ったか追いかけてしまう。
混ぜた幻覚。最初から単純に混ぜた問題だと思い込んでしまう。
この二つを消せれば、天秤法は速い。消せなければ、天秤図が浮かばない。読み替えができた時点で、鶴亀算でも天秤法でも同じ入り口に立っている。
解法が見えるのは、解法をたくさん暗記しているからではない。問題文を見たときに、まず「何算か」を探しているのではなく、何が変わらないか、何が変わったか、何と何の差が効いているかを見ているからだ。
構造を見る三つの問い
この三つが見えた瞬間、この問題は「24gの増加を、96%の差で作る問題」になる。ここで鶴亀算の枠が自然にはまる。
鶴亀算は小学校で「置き換え」として習った。全部これだったら、実際との差はいくつか、1つあたりの差はいくつか、を見る考え方だ。
鶴亀算型
答え 5(a = 25)
これは鶴亀算を無理やり当てはめているのではない。三つの問いに答えたら、自然に鶴亀算の構造になったのだ。鶴亀算を思いついたのではなく、鶴亀算に見えるところまで問題文を削ったのだ。
方程式
操作をそのまま式にする。正確だが、a があちこちに出てくるため立式で混乱しやすい。整理すると \(0.96a=24\) に収束する。
天秤法
読み替えができれば速い。しかし取り出した残像・混ぜた幻覚が天秤図を見えにくくする。読み替えが前提。
鶴亀算型(主役)
4%のものが100%のものに置き換わった、という見方が問題の操作そのものに近い。小学校で習った道具で解ける。
どの解法でも、結局は「4%と100%の差によって、24gの食塩増加を作る」という構造にたどり着く。違うのは、そこへ入るまでの見方だ。
選択肢がある場合は、総当たりで代入する必要はない。構造を見たうえで候補を絞り、確認すれば十分だ。
増えた食塩は24g。置き換えた量はほぼ24gより少し多いはずなので、25gを試す。
a = 25 の確認(30秒)
これは単なる代入確認ではない
概算で候補を絞り、構造に合うかを確認している。この問題が「方程式を立てる力」より「状況を単純化して捉える力」を問うていることの証拠でもある。
この問題について複数の生成AIに確認したところ、判断が分かれた。
4%の食塩水 ag が100%の食塩 ag に置き換わったという構造を認識し、鶴亀算型として正しく解いたAIがある一方で、食塩水問題を「濃度・重さ・食塩量の関係式を立てる問題」というフレームで固定してしまい、鶴亀算ではないと判断した例もあった。
ここから分かるのは計算力の差ではない。問題をどのフレームで見るかの差だ。AIも方程式を知っている。天秤法も知っている。鶴亀算も知っている。しかし、最初のフレームを誤ると、正しい構造が見えないことがある。
これは人間の生徒にも同じことが起こる。中学受験を経験していない生徒は「食塩水だから方程式」。経験している生徒は「食塩水だから天秤法」。この問題で本当に見るべきなのは、食塩水という単元名ではなく、総量が変わらないこと、食塩量が増えたこと、濃度差が効いていること、この三つだ。
数学の難しさは、計算の難しさとは限らない。この問題は一元一次方程式で解ける。しかし、式を立てる前に整理すべきことがある。
何が変わらないのか。何が変わったのか。何と何の差が効いているのか。どの情報を消すべきなのか。どの操作に引っ張られてはいけないのか。
ここを整理しないまま式に入ると、簡単な一元一次方程式のはずなのに迷う。これは連立方程式の文章題でも同じだ。連立方程式が解けないのではなく、連立方程式にする前に何と何を対応させるかが見えていないのだ。
だから北川式では、いきなり解法名を探さない。食塩水だから天秤法、文章題だから方程式、と決める前に、問題文から余計なものを消す。構造を露出させる。
この問題で消すべきものは、取り出した残像と混ぜた幻覚だ。残すべきものは、総量300gが変わらないこと、食塩量が24g増えること、4%のものが100%のものに置き換わること。ここまで見えれば、解法は自然に決まる。