令和6年度 共通選抜 本検査|神奈川県公立高校入試 国語

問4 古文|『古事談』

「涙=悲しい」に飛びつかない。人物の立場・行動の目的・物語の最後の認識変化まで追う。

この年度のポイント
公表正答率は4問とも6割を下回り、(イ)は39.5%、(ウ)は41.8%、(エ)は45.1%です。 選択肢そのものには本文にない要素を見つけやすいものもありますが、その前提となる本文の読み取りで差がついています。
→ 神奈川県公立高校入試 古文の総論
公表正答率は、(ア)56.9%・(イ)39.5%・(ウ)41.8%・(エ)45.1%。
令和6年度は、選択肢を分解すると誤答の余計な要素自体は比較的見つけやすい一方、 「涙を流す=悲しい」と決めつける、行動の目的を取り違える、最後の認識変化を見落とす、といった本文側の読み違いが起こりやすい問題です。 選択肢分析だけでなく、本文の人物関係と因果を短く整理してから照合します。
古文でも、選択肢を先に分解する

いきなり正誤を判断せず、「何について」「どう言っているか」を選択肢ごとに分けます。 そのうえで、差が出る箇所だけ本文に戻ります。
→ 動画で見る|選択肢をどう分析するか
→ 物語文(文学的な文章)の解き方

一 過去問解説

(ア)「恨み」を現代語の一語に固定しない正答率 56.9%

「ここに至りては理非顕然に候ふ。未断の条術なきことに候ふなり。」までで、顕季は「どちらが正しいかは明らかで、裁決しない理由はない」と考えています。

領地の件白河法皇の態度顕季の気持ち
1正否はわかりきっているはっきり判断してもらえない不満
2義光の言いがかり厳しい罰を加えようとしない情けない
3「義光」に利なしと判断何度も説明を求められる煩わしい
4義光とともに意見を求めている相談に応じない失望
本文理非顕然未断の条術なきことに候ふなり御成敗なし。匠作心中に恨みたてまつる
「恨み」は、現代語の「憎む」だけではありません。
ここでは、正否が明らかなのに裁決してもらえないことへの「不満」「恨めしさ」と読むと、前後が自然につながります。

答え 1

(イ)「零涙=悲しい」と決めつけない正答率 39.5%

この年度で最も正答率が低い問題です。顕季は、自分の正当性を主張し続けたい。しかし白河法皇は、義光が武士であることを踏まえ、最終的には領地を手放すよう勧めます。

顕季白河法皇の判断「零涙」の意味
1正当性を主張し続けたい顕季の怒りを買ってしまい、やり切れない悲しみ
2正当性は認められている武士である義光との争いを避け、領地を手放すよう勧める恐れ多く思う
3自分の主張を認めてもらえない義光を哀れんでいる悲しみ
4領地を奪われた義光を恐れて顕季を裏切った悲しみ
本文不便に侍れば、避りたてまつらんと思ふなり道理に任せて裁許せしむれば、子細をわきまへずして、武士もしこは腹黒なども出来せんずらん匠作零涙に及びて
「涙=悲しい」ではない
もちろん、悲しいときにも泣きます。しかし古い文章では、恐れ多さ・畏敬・感謝のあまり涙を流すこともあります。 とくに身分の高い人物の言葉や配慮に感激して涙を流すことは、敬意や忠誠の表れとして好意的に描かれることがあります。 「零涙」の一語だけで「悲しい」と決めず、前後の人物関係から意味を決めます。

白河法皇は顕季の正当性自体を否定していません。そのうえで、武士である義光との衝突を避けるために譲歩を勧めています。顕季はその意向に畏れ入り、涙を流したと読むのが自然です。

答え 2

(ウ)行動ではなく、その目的を見る正答率 41.8%

顕季が夜、一人で退出すると、甲冑を帯びた武士が車の前後にいました。ここで重要なのは「武士がいた」という事実だけでなく、何のためにいたのかです。

義光の受け止め顕季に対して行動
1譲ってくれたことに歓喜家来まで手薄になったと考え警護させた
2気を良くし、威勢を誇示―武士を登場させた
3顕季に同情―恩に報いる機会を探らせた
4譲ってくれたことに感謝―部下に見守らせ、送りをさせた
本文義光喜悦の色あり―御送りのために似てたてまつるところなり
本文に目的が書いてあるなら、そこを使う。
武士が車の前後にいる場面だけを見て「威勢を示した」「監視した」などと物語を作らない。「御送りのため」が判断の中心です。

答え 4

(エ)最後に「誰を評価しているか」を確認する正答率 45.1%

後半だけを見ると、義光が顕季を護衛したことから「義光は義理堅い人物だった」とまとめたくなります。しかし、結末で顕季が感心している対象は義光そのものではありません。

選択肢の中心本文とのずれ
1義光は領地に執着する一方、武士として忠義を貫く「家来として誠実に尽くす姿を見た」など、本文にない評価を加える
2顕季は白河法皇の裁決に納得し、義光には武士として領地を守る性質のほか、他者の命を重んじる一面もあると知った「他者の命を重んじる」「裁決に納得した」を足している
3顕季は領地を手放した後、義光の武士としての側面を実感し、白河法皇の配慮の的確さに感服した本文末の認識変化と一致
4義光は領地に対する強い思いを持つ人物で、顕季から与えられた領地を命がけで守ろうとする様子を見た白河法皇が褒めたたえた白河法皇がその場で義光を褒めた記述はない
本文「ここに心中に御計らひのやむごとなきを思惟す。」
後世の「武士道」イメージを持ち込まない
義光が護衛をつけた場面だけなら、「義理堅い立派な武士」と読みたくなるかもしれません。 しかし本文の結末は、義光を称えることよりも、義光という武士の性質を見越していた白河法皇の判断に顕季が気づくところにあります。 歴史知識がなくても、最後の一文の主語と評価対象を確認すれば判定できます。
物語の最後で、評価の主役がどこに戻るかを見る。
義光の行動は、白河法皇の判断が的確だったことを示す材料です。印象的な行動をした人物を、そのまま物語の主役・評価対象にしないこと。

答え 3

二 この年度から分かること

選択肢が粗く見えても、本文の読み取りが粗ければ落とします。
令和6年度は、選択肢を分解すると本文にない追加情報を見つけやすい問題が多い一方、 「恨み」「零涙」のような語を現代語の一点に固定したり、行動の目的を読み違えたりすると、誤答選択肢の方が自然に見えます。
感情語は、単語だけで決めない。
「涙を流した」から「悲しい」と決めるのではなく、誰の言葉を受け、何が起こり、その人物がどのような立場にいるかまで確認します。
行動には「何をしたか」と「何のためにしたか」がある。
(ウ)のように目的が本文に明記されている場合は、その一句を選択肢判定の軸にします。印象から目的を補わないこと。
最後の一文は、物語全体の読みを修正することがあります。
(エ)では、義光の行動そのものより、それを見て顕季が白河法皇の判断をどう捉え直したかが結論です。 「誰がすごかった話なのか」を、最後の一文まで読んで決めます。

三 まとめ

令和6年度の問4は、選択肢だけを見ると本文にない要素を比較的見つけやすい問題です。それでも正答率は39.5~56.9%にとどまりました。

差がついたのは、古文単語の暗記量だけではなく、人物関係・立場・行動の目的・最後の認識変化を正しくつなげられたかどうかです。

古文も日本語です。単語を一点で訳すのではなく、前後の文脈で意味を決め、選択肢を論点ごとに分けて本文と照合します。

AUTHOR

北川誠二

個別指導塾TOMAS講師・北川塾主宰・認定心理士

神奈川県公立高校入試の過去問を、正解だけではなく「なぜその選択肢を消せるのか」「何を見ればよいのか」という解く順番から分析しています。

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