小学校までの算数では、数は主に「どれだけあるか」という量として扱われます。ところが中学数学の正負の数では、同じ3でも、+3は正の向きに3、-3は負の向きに3を表します。符号は単なる飾りではなく、数の向きを示すものです。
北川式では、正負の数を暗記する符号ルールとしてではなく、算数の「量だけの世界」から、数学の「向きと量の世界」へ移る最初の単元として扱います。このページでは、一般的な指導で不足しやすい点と、北川式がどこを変えているのかを整理します。
最終更新日:2026-06-26
正負の数の理解に必要なのは、数を「量だけ」で見る段階から、
「向きと量」を持つものとして見る段階へ移ることです。
このページの主張
一般的な指導は、この断絶を埋める方向ではなく、気温、借金、陣地取りといった比喩を足す方向に向かうことが多いです。比喩は、子どもにとって入口を作りますが、「量だけの世界」から「向きと量の世界」への移行そのものを埋めてはくれません。
小学校までの算数では、数は主に「どれだけあるか」という量として扱われます。ところが中学数学の正負の数では、同じ3でも、+3は正の向きに3、-3は負の向きに3を表します。符号は単なる飾りではなく、数の向きを示すものです。
北川式では、正負の数を暗記する符号ルールとしてではなく、算数の「量だけの世界」から、数学の「向きと量の世界」へ移る最初の単元として扱います。このページでは、一般的な指導で不足しやすい点と、北川式がどこを変えているのかを整理します。
第一の限界:負の演算を説明できない
気温や借金の比喩は、「負の状態」を説明するには有効です。「氷点下3℃」「5万円の借金」は日常経験の中にあり、子どもはイメージできます。
しかし「負の演算」は説明できません。「氷点下3℃から氷点下2℃を引く」を気温で直感できる日常経験は存在しません。比喩の役割は、主に負の状態を導入するところまでです。
比喩の限界
気温や借金といった比喩は、「負の状態」を説明することはできても、「負の演算」を説明することはできません。「氷点下3℃」はイメージできる。しかし「氷点下3℃から氷点下2℃を引く」を気温で直感することは、日常経験として存在しないのです。
第二の限界:変換を省略している
借金の比喩は、「マイナスを引く」を説明しようとするとき、さらに問題を起こします。
「借金が減る」という日常感覚は、実際には「返済する」という行為として成立しています。ところが数学はその行為を「負債というマイナスを、マイナスする」という操作に変換します。ここには二段階の変換があります。
一般的な指導は一段階目で止まります。「借金が減るイメージ=マイナスをマイナスする」と、二段階を一気に飛ばして対応させる。だから子どもは「借金の話はわかった、でも計算がわからない」という状態になります。
数直線は、単なる理解の補助ではありません。「向きと量」という見方が先にあって、それを目に見える形にしたものが数直線です。
数直線を書かせる指導は広く行われています。しかしこれは、数直線が何を表しているかを教えずに使わせているケースが見られます。
数直線は、答えを確認するための道具ではありません。「向きと量のセットで数を表す」という新しい世界観を、目に見える形にしたものです。その世界観がない状態で数直線を書いても、子どもには「何かを書いている」だけになります。そこには何の意味も読めません。
生成AIに「正負の数でつまずいた子への教え方」を聞くと、いくつかの比喩を並列で提示し、特に「マイナスを引く」のような場面では、語呂合わせやキャラクターを使った視覚的な覚え方を勧める、という回答パターンが繰り返し出てきます。
これは「わかりやすさ」のために情報を足す設計です。しかし子どもは、一つの比喩の世界を理解したうえで、それを数の操作へ変換しなければなりません。比喩を一つ足すたびに、説明しなければならない場面が一つ増えていく。「マイナスを引く」で詰まるのは、その積み重ねの結果です。
北川式は比喩を使わない、のではありません。数の世界を離れない体験を選ぶのです。
「お面をつけて歩く」は、その実例です。プラスのときはお面を顔につけて前に進む。マイナスのときはお面を後頭部につけて進む。引くときは、お面の向きとは逆方向に歩く。
借金の話は、数の世界の外に出て、別の文脈で答えを出してから戻ってくる。
お面の話は、数の世界の中にいたまま、向きと量の操作を身体で体験できるので、そのまま理解できます。
体験が終わった時点で、概念が見えている。説明が体験の後から要らない。
これが「抽象概念に直結する体験を選ぶ」ということです。
場面ごとに別の比喩を使わせると、問題の形が変わるたびに「これはどの比喩を使う場面か」を判断する必要が生じます。
北川式は、加法・減法・乗法・除法をすべて「向きをそのまま使うか、反転させるか」という一つの原理に収束させます。
足す:向きをそのまま使ってくっつける
引く:向きを反転させてくっつける
掛ける・割る:マイナスの数だけ向きを反転
「マイナスを引くとプラスになる」は、この原理の当然の帰結です。語呂合わせも不要です。マイナスの矢印はもともと左を向いている。それを反転させれば右を向く。それだけのことです。覚えるべきルールが一つになるから、認知負荷が下がります。
| 一般的な指導 | 北川式 | |
|---|---|---|
| 設計の発想 | わかりやすい比喩を足す | 抽象概念に直結する体験を選ぶ |
| 比喩の使い方 | 場面ごとに別の比喩を使う | 数の世界を離れない体験を使う |
| 説明できない場面 | 語呂合わせやルールの暗記に頼る | 統一原理で正面から説明する |
| 認知負荷 | 比喩を足すたびに負荷がかかる | そのまま理解できるので負荷が低い |
| 原理の数 | 複数(比喩ごとに別の回路) | 一つ(向きをそのまま使うか反転させるか) |
比喩を増やすことは、わかりやすさではない。
本当に必要なのは、数の世界そのものに直結する、一つの見方だ。
数を「量だけ」で見る段階から、「向きと量」を持つものとして見る段階へ移ることです。小学校までの算数では、数は主に量として扱われますが、中学数学の正負の数では、同じ3でも+3は正の向きに3、-3は負の向きに3を表します。符号は単なる記号ではなく、数の向きを示しています。
気温や借金の比喩は「負の状態」を説明することはできますが、「負の演算」を説明することはできません。さらに借金の比喩では、「返済する」という日常の行為から「マイナスをマイナスする」という数学の操作までに二段階の変換があり、一般的な指導はその一段階目で説明を止めてしまいがちです。
子どもは一つの比喩の世界を理解したうえで、それを数の操作へ変換しなければなりません。比喩を一つ足すたびに、変換しなければならない場面が一つ増えます。統一する原理がないまま比喩を積み上げると、説明できない場面でルールの暗記に頼ることになります。
数直線は、単なる理解の補助ではありません。「向きと量」という見方が先にあって、それを目に見える形にしたものが数直線です。その見方がない状態で数直線を書かせても、子どもには手順の一つとして処理されるだけで、概念の理解にはつながりません。
一般的な指導は、わかりやすい比喩を足すことで理解させようとします。北川式は、比喩を足すのではなく、数の世界を離れない体験を選び、「向きと量」という見方に直接つながる体験を通して、加法・減法・乗法・除法を一つの原理に収束させます。